それは捜査途中、本庁への戻る道すがら———
道の真ん中で木場がふいに立ち止まった。
「先輩?」
どうしたんですか、と青木は木場に声をかける。
しかし、木場はただ視線を遠くに飛ばしているばかりで、
応じようともしない。
「?」
となると、自然と青木も木場の視線の先を追うしかない。
ちょっとばかり視力には自信があるんですよ、と密かに胸の内でつぶやいていた。
目前にあるのは、いつもと変わらぬ街の景色。
昼下がりのどこかのんきさをまとった、東京の一角だった。
(いつもと変わった所があるのか?)
そうでないと、木場が立ち止まった理由が判らない。
なにかを見つけての事の筈だ、青木が確信を深め、
視界の端に違和感を感じた時、木場の声が聞こえてきた。
「……ちょっと抜けるぜ」
「は?」
思わぬ言葉に、青木はぽかんとして木場を見る。
「なんですか。先輩?」
あまりにも唐突すぎる木場の言葉に、
青木もかなり不躾な言葉で木場に返す。
そして木場は、さらに続けた。
「一時間ぐらいで戻る。手前は先に帰ってろ」
「帰っていろって……!」
何があったんですか、とまで青木は言葉を続けることが出来なかった。
木場は青木の返事など待つこともなく、先刻の視界の先へと進んでゆく。
そして、そこは青木が違和感を感じた場所。
「……あ」
そして、青木は思わず声を上げて、軽い自己嫌悪のようなものに襲われていた。
もっとも、青木にはそこまで思うほどの責任は全くないのだったが、
それでも木場に自分が見ていた事を知らせないように、
足早にその場所を去る。
——— 困った人だ
胸の内で青木は思う。
その場所には、見慣れすぎた車が停まっていた。
それもただの車ではない。年代ものの高級車で、つまりは。
※※※
「お帰りなさい」
「……おう、すまなかったな」
確かに一時間程で木場は戻ってきた。
そして、何事もなかったかのように、席について机上の書類に手を伸ばす。
——— 聞きませんよ、僕はね
恩を売るつもりもないし、売っても買ってはくれないでしょうし、と
青木はそっと木場の様子を窺いながら思っている。
勿論、何があったのかはあくまでも青木の予想でしかないのだが……
表情は誤魔化しきれても、ふわりとかすかに感じる残り香だけは、
どうしても消せない事を未だに木場は気づいてないらしい。
——— 本当に 困った人だ
青木は木場に気づかれぬように、そっと息をついた。

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