突然、目の前に光が広がった。一瞬の静寂のあと、全ては闇より深い黒の世界と変化し、暗転する。そして榎木津は、自分がどんな状況にあるのか解らなくなっていた。立っているのか、それとも倒れているのか、空に浮いているのか‥‥‥踏ん張るにも支えが見つからない。まるで溺れているような感覚に陥ってゆく。
爆音が響き衝撃音を体で感じた。火薬の臭い。ざわめきが遠くで聞こえはじめる。
そして、ようやく感じはじめた。目に感じる熱さを。
◆◇◆
懐かしい背中が目の前にあった。手を伸ばせば届きそうな近さなのに、榎木津は伸ばす事が出来ない。
‥‥‥記憶は再生される。
風が吹き付ける土手に榎木津はいる。そして黙々と幼馴染みの広い背中を睨みつけて歩いていた。言葉が風にとぎれながらも耳に伝わる。しかし、榎木津応じない。答えぬ事で怒りの深さを知らせているつもりであったが、時として言葉にしても意志が伝わらない相手であることを失念する程に、その日の榎木津は冷静さを失っていた。
言いたいこと、伝えたい事がある。しかし、それは言葉には出来ない。そして、繰り返す記憶の風景のなかでもそうだった。胸の内の叫びは、決して木場には伝わらない。
『親父に殴られた。木場の家から人殺しは出さねぇってな』
それはそうだろう。親父殿は正しい。
『だけどよ、国の大事を思ってるんだぜ?』
愛国者に殺人を勧める国なぞ、今すぐ見限れ!この阿呆!
『国も大事だ。当然家族もだ‥‥‥勿論、手前もだよ』
この大馬鹿者!大勢の中の一人になって、誰が喜ぶとでも思っているんだ!
見知らぬ人間に殺されてもお前はそれでいいのか?
『‥‥‥俺はな、体を動かすしか能がねえからよ‥‥‥手前は頭使って、国の為に尽くすんだぜ』
あぁ、本当に大した国だ!素人まで戦場に狩り出す国なんだぞ!お前知っていたか?
大事な命を賭ける程、大した国じゃないんだぞ!賭けるべきものは、もっと他にある筈だろうが!
修太郎っ!
行くんじゃない!
この馬鹿‥‥‥
「馬鹿‥‥‥しゅ‥‥‥」
怒号が声になり、船室の寝台の上で最悪な目覚めを榎木津は迎えていた。顔の上に包帯が巻かれてうっとおしい上に暑かった。右の目だけで天井を榎木津は睨む。
昏倒しているうちに、戦争は終ったらしい。
『無条件降伏』‥‥‥無様な結末だと榎木津は思い、そして苦く笑う。

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